経緯

 私は実験系の元研究者です。40年以上にわたって、材料の基礎研究を行ってきました。70歳という節目の年が先に見えた頃、どういうわけか、無性に熱力学の解説書が書きたくなりました。40年以上の研究を通じて、そのベースとなった考え方の多くが、熱力学から来ていると思ったためかも知れません。

 71歳で完全にリタイアしました。そこで、今まで書き溜めたものに加筆し、精査を加える作業を始めました。75歳を目処に慌てずにゆっくりと、完成を目指すことにしたのです。それは私の最後の仕事であり、同時に、老後の楽しみともなるはずのものでした。

 しかし、72歳の誕生日を目前にして、自分が深刻な病にかかっていることが分かりました。75歳まで十分に時間を取って、というのは許される状況ではなくなりました。今まで年単位で考えていたことを、月単位で考えなくてはならなくなったのです。

 2つの選択を巡って悩みました。1つは、がむしゃらに頑張って、短い期間でなんとか完成までこぎつけるというものです。2つ目は、きっぱり諦めて、書き溜めたものはすべて捨ててしまう、というものでした。しかし、どちらも忍び難い選択です。人生の最後をフレッシャーの中で過ごしたくないという思いは強いし、さりとて、今までの努力を水の泡にする、という思い切りも難しかったからです。

 第3の道として思いついたのが、子どもたちに開設してもらったこのホームページです。書き溜めたものにとりあえず最低限の体裁を与え、初稿としてホームページ上で公開してしまおう考えたのです。それは、誤字・脱字はもちろん、数式の誤り等を含んだ完成度の低いものです。あるいは、もっと本質的な思い違いや誤りからも自由ではないかも知れません。今後、自分に残された時間を使って、少しずつ完成度を高め、1~2ヶ月ごとに改定稿の形でアップデートを繰り返していきたいと思っています(何回までできるか分かりませんが)。もし、こんな不完全な本でも、読んでみてやろう、という奇特な方がいたらぜひダウンロードしてください(もちろん無料です)。そして、なにか思うところがあったら、コメント等を残していただけたら幸いです(誤りの指摘なども大歓迎です)。本書を読んで、熱力学の理解に役立った、という読者が1人でもいるとするなら、それは私にとって望外の喜びです。

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